北朝鮮に思うこと 2005-01-06 11:48:54

テレビを見ていると北朝鮮のニュースばかりだ。それもかなり偏向していて北朝鮮がいかにおかしな、悪い国かということばかり報道している。理由は単純で、そのほうが面白いからだろう。見ていると日本に住んでいて良かったと思えるし、あんな国はさっさと潰れればいいという気分になってくる。これは恐ろしいことで、マスコミがわれわれの感情に及ぼす影響力の強さを実感する。

拉致被害者の家族や支援している国会議員などが、盛んに経済制裁を実行するべきだと主張している。しかし、これだけ拉致拉致と騒いでいるのは六カ国協議の参加国のうち、日本だけなのではないだろうか。難しいことはわからないが、自国民が誘拐されたのでなければ、核兵器の問題のほうが大きな、そして緊急の問題に感じるだろう、と私は思う。

こういうことに関する知識も英語力もないのでその辺の海外メディアの扱い方がよくわからないのである。いずれにしろイラクが一番の関心事であろうことはさすがに予想できるが。

経済制裁を行うことで、もし拉致されている人々が解放されるならば直ちに実行すべきだと思うが、素人ながら幾つか疑問がわく。どうもその疑問はテレビを見ているとあまり解説されないのですっきりしないのである。

たとえば、日本だけが経済制裁をしても、中国やその他の国が協力をしなければあまり実効力がないのではないか。

仮に経済制裁が本当に有効で北朝鮮が日本の要求を呑むとして、どこまで行けば日本側は納得できるのか。いわゆる拉致されたという証拠はないが、その疑いが濃厚な行方不明者は百人単位でいるとテレビで言っていた。その中には本当に拉致された人もいるだろうし、事故や違う事件に巻き込まれた人もいるだろう。今問題になっている人々は北が認めたごく一部の人でしかない。そういう人に関しては、どう扱うのか。北は今まで認めた分だけを解放しあとは口をつぐんでしまうのではないか。

仮に北朝鮮経済制裁をしたとすると、日本国内で活動している工作員がテロ活動を始めたら日本は対処できるのか。日本は金大中拉致などを見てもわかるように、スパイに対して弱い。黄書記が日本に亡命しなかったのも、日本には朝鮮総連があるので危険だから、という理由だったとテレビで言っていた。そうリスクを犯す覚悟がわれわれにあるのか。

経済制裁が実行されても、北朝鮮が耐えたらどうなのか。いつまで、どの範囲で行えばいいのか。イラクアメリカに経済制裁を受けてもずっと持ったではないか。その間にフセイン政権を憎んでいる人々にも強い反米感情がいっそう育っただけではないか。

仮に有効で北朝鮮が崩壊したとして、大量の難民を(おそらくは強い反日感情を抱いている)受け入れる覚悟はあるのか。

中国は北朝鮮社会主義国であり続けることを望むだろうが、必ずしも今の体制を支持しているわけでもないと思う。だが、内戦のような危険な形での北朝鮮の変化は絶対望まないと思う。これ以上の難民の流入を絶対避けたいはずだし、アメリカ軍が朝鮮半島に介入するのも望まないはずで、日本の経済制裁を喜ばないのではないか。

アメリカも、今はイラクが精一杯だし、どう見ても核兵器の方が大きな問題だろう。経済制裁には反対ではないのか。

韓国は明らかに北に対して「融和」路線だから、本気で経済制裁を始めたら、日本とかなりの緊張状態になるだろう。北は敵ではあるが同じ民族である。その民族を日本が飢え死にさせようとしている(実際にそうでなくてもそう受け取られるだろう)

いろいろ疑問はあるが一番大きいのは、経済制裁をして、あまり効果がなかったとき、日本はどうするつもりなのだろうか。

憲法により、自衛隊をこの問題に使うことはできない。憲法の改正、特に九条は実際問題として不可能だろう。日本がどこかの国と交戦状態にでも入らなければ。

よく「国益」という人たちがいるが、そういう人に聞きたいが、本当に日本が「拉致」にこだわることは国益にかなうのだろうか。日本があまりに拉致にこだわってそればっかり言っていると、国際社会の流れから孤立して、かえってよくないのではないか。国際社会はまず核兵器が問題であり、核が使えないとはっきりさせてからアメリカが北を料理する、というのが流れだろう。北はそれがいやだから、とにかく時間稼ぎをしたいというのが本音ではないだろうか。日本はまんまとその作戦に使われているのではないか。

よく学級会でどうでもいいことにばかりこだわって話を進めない人がいるが、そういう風に受け取られるのではないか。「何々君が授業中に消しゴムのかすを投げてくるのを謝罪してください」という風に受け取られるのではない。面白いことに、これがアメリカ人が拉致されていたらアメリカがこういう風に騒いでも皆それなりに耳を傾けるだろうという感じがするという点でもある。

しかし日本にはそうやって押し通すジャイアン的パワーがないので、正しいが今は犠牲にするしかないことをくどくどいう神経質な人として見られてしまうのではないか。

おそらく「拉致された国民を救うことこそ国益」というのと「国際社会に強調してこそ国益」という複数の考えがあるだろう。考えてみれば両方とも「国益」である。

私の立場を言っておくと、経済制裁はしてもしなくてもいい、という立場である。拉致被害者の人々はかわいそうだが、だからと言って何もする気は今のところ一切ない。社会的正義のために何らかのアクションを起こすきは今は一切ないのである。国益に関しても、「それぞれ自分の思い描くあってほしい国」にとっての利益を国益と読んでいるに過ぎない、というのが私の考えだから、あまり興味はない。

しらけているとかクールな気取りでこう主張しているのではなくて、これが私の政治的主張なのである。やる気満々で、こういうことを述べているのである。

別にこの姿勢を生涯貫き通すわけではない。その都度私は自分の態度を決めるつもりである。