梅田さんはやはり励みになる



梅田望夫さんのブログに、梅田さんが読売新聞に一月に一冊づつ書評してきた12冊全部の全文が掲載されている。

選ばれた本もさることながら、書評の内容”も”さることながら、書評の文体が(あくまで私個人の興味だが)勉強になった。

特に励みになったのは、この書評。

http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/
(引用開始)
第12回 「事業経験を生の充実に活かせ」(読売新聞08年3月23日朝刊)

一年間にわたって本欄では、シリコンバレーやウェブといった私の専門に関わる本だけでなく、教養書をビジネスに役立てる視点から読み解く試みも続けてきた。

「知を愛し、せっかく生まれてきたからには個の力で何かを成し遂げたいと志は持ちつつも、飯を食うために、世の中と折り合いをつけるために、まずはビジネスの世界に身を投じた」という人たちを、心の中で想定読者に置いていたからである。かくいう私もそんな一人なのだ。だから若い頃は、前半生の事業成功で築いた資産を後半生の発掘調査費に注ぎ込みトロイア遺跡を発見したハインリッヒ・シュリーマンを、「前半生と後半生の役割分担」のロールモデル(お手本)に置いていたほどだった。

私が本欄を担当する最後である今回ご紹介するのは「マイクロソフトでは出会えなかった天職」(ランダムハウス講談社)である。著者ジョン・ウッドは、典型的な米国ビジネス・エリートとしての前半生を過した。ビジネススクールを出て、金融機関で経験を積み、時代の旬を生きるマイクロソフトに職を得て、寝食を忘れて働き、組織の階段をのぼって要職につき、ジョンは大きく稼いだ。

そんな彼が三週間の休暇を取ってネパールにやってくるところから本書は始まる。貧しいネパールの学校に本がないことを知り愕然とした彼は、友人や父親と協力しながらネパールに本を送り始める。その活動に伴う「生の充実」を知った彼は、仕事を辞め、上昇志向の強い恋人と別れ、「ルーム・トゥ・リード」(www.roomtoread.org)というNPOを設立する。同NPOはいまや、年間一千万ドル規模の寄付を集め、これまでにネパールやカンボジアなど七カ国で、学校を四四二、図書館を五一六〇も作った。ジョンはさらなる発展を目指し、世界中を飛び回っている。

特に本書第15章「NPOマイクロソフトをめざす」を読むと、前半生のビジネス世界での一流の経験こそが後半生の「生の充実」のために活かせる、という彼の経験から勇気を得られることだろう。

(引用終了)


ビジネスの世界、それも被書評の本では、MSのスーパーエリートでちょっとすぐに一般庶民たる自分には真似できないところがあるけれど、

「知を愛し、せっかく生まれてきたからには個の力で何かを成し遂げたいと志は持ちつつも、飯を食うために、世の中と折り合いをつけるために、まずはビジネスの世界に身を投じた」

という部分はまったく同じだ。それがワーキングプアだろうとスーパーエリートだろうと同じことだ。それにしても私の心に響いた言葉だ。

ただ、ワーキングプアはいったんビジネスの世界から身を引く余裕を終に持てないし、まったく違う世界でもバリバリ新しい何かを切り開く実力を、日々の仕事の中で伸ばすことができない。

だから、ワーキングプアには、ビジネスでひと財産(マネジメント能力というインヴィジブルアセットも含む)築き上げてから、第二人生を・・・という方法はリスキーすぎる。

どうにか生き続けながら、「何か匂いのする方」にじりじりと近寄っていく方法をとるべきだろう。

■できうるならば、ブルームズベリーグループとかみたいにどうにかひと皮むけたい人間が集まって刺激しあうようにしていきたい。ひと皮むけるには啐啄(そったく)の機が重要で、自分の内面の成長も大事だが、外部からの卵の殻をつつく刺激も重要なのだ。

母親鳥はいない。けれども、一足先に殻を出たひよこが、隣の卵をつついてひびを入れたっていいじゃないか。

自然にウラン鉱石が集まって勝手に反応しはじめることがあるように(天然の原子炉)、IT以外の分野で、シリコンバレーみたいにどうにか面白いことができないもんだろうか?

それには先にひと皮もふた皮も向けた先輩たちの参加も必要だ(ケインズというスターがブルームズベリーにいたように)。